エンゼルフィッシュを飼育しましょう!

魅惑の天使、エンゼルフィッシュ。古くから熱帯魚の代名詞であり続けるトップスターであります。これまで多くのアクアリストに、熱帯魚の飼育とはどういうことなのかを教え続けてきてくれました。今日は、エンゼルフィッシュについて考えてみましょう。

■シクリッドの仲間
シクリッドとは、スズキ目スズキ亜目カワスズメ科の魚たちを指します。シクリッドの特徴としては、
①鼻孔が左右にひとつずつ合計二つあること
②背ビレが1基あること
③側線が二本あること(頭部から始まった側線が体の中央まで伸びる一本と、体の下部から始まり尾柄部まで伸びる一本。外部からの刺激を感ずる感球が一定の間隔をおいて並んでいて、これを側線といいます。側線の上を通るウロコにはひとつずつ穴が開いていて、目に見えないエサのありかを教えたり、水圧や水流の変化を感じとったり、外敵の察知をする重要な役割を果たしています。聴覚と触覚の中間のような役割です。)
④子育てをすること、などが挙げられます。
シクリッドの仲間は1300種以上が知られていてそれぞれ独自の進化を遂げてきました。オスカー、アイスポットシクリッドのように大型化してほかの魚を捕食するもの、アピストグラマのように小型化することで厳しい自然界の競争を生き残ってきたもの、ディスカスやエンゼルフィッシュは体幅が薄く外敵からは見つかりにくく、逃げやすい体型を選んできて、現在にいたっている種といえるでしょう。少数ながらインドやスリランカで見られるシクリッドは、かつてインドがアフリカ大陸と陸続きで、大陸移動によってユーラシア大陸にぶつかったことを示す証拠のひとつであります。

■原種エンゼル
アマゾン水系上流、中流域に生息するスカラレ種、独特のフォルムで人気のアルタム種、アマゾン河中流、下流域に分布するレオポルディ(ドゥメリリィ種)、近年の精査で存在が再び明らかになったアイメケイ種の4種が知られています。数多く流通している改良品種たちは、原種が存在しなければこの世界にいないわけで、エンゼルに限らず原種、ワイルド個体の理解は必要であります。原種エンゼルを飼育するには、幅60cm以上で深さ45cm以上の水槽が望ましいです。遊泳スペースが十分で水質も安定しますし、伸長するヒレや美しい体型を楽しめるからであります。購入時は入荷日、エサなどをショップで確認し、水槽への導入時は水温、水質合わせを確実に、導入してから1ヶ月ほどの期間は、よく観察し素早い対処ができる態勢を整えておくとよいでしょう。病気は、発生させないのがいちばんです。魚病薬は常備すべきですが、一度病気になって回復した個体や、一度外傷・キズを負って直った個体は、健全に成長した個体に比べて観賞価値が低下してしまいます。

ショップには各メーカーからリリースされているいろいろな器具や便利なアイテム、コンディショナーなどが並んでいます。どれを選んだらいいのか迷うこともあると思います。ろ過器にしても、バクテリアにしても似たような性能をもつ製品の中からも、あなたの水槽にマッチするもの、効果が目に見えるものが必ずあるはずです。いつもこの製品、というのも管理のひとつではありますが、いろいろな製品を使ってみて、良いものに出会っていただきたいのです。売り場に立って感じることが多いのは、水質調整剤、バクテリア、ろ過器、ろ過材、エサ部門は、各メーカーがより良い製品づくりをしており激戦であるということ。製品選びも趣味としての熱帯魚飼育の楽しみとしてほしい、ということです。

大切に育てた原種エンゼルは5年、6年と長くつきあえます。

■改良品種
古くはアメリカのナジヤ夫妻の作出したゴールデンエンゼルを筆頭に、改良品種は数多く流通しています。日本にも香港、シンガポールなど東南アジアの養殖魚が毎日のように届いています。水槽で産まれた個体は、ワイルド個体よりも扱いやすく飼育しやすい面が多いです。値段も手ごろなものが多いので初心者の方にもおすすめであります。

ゴールデンエンゼル・マーブルエンゼル。色揚げ用フードを積極的に与えると、額部から背ビレにかけてオレンジ色に発色し美しい種です。

トリカラーエンゼル。三色をもつという意味でトリカラーとよばれます。東南アジアでは錦鯉に喩えてコイエンゼルとよばれています。人気種です。

ダイヤモンドエンゼル。成長するにつれギラギラ光ってくる鱗が魅力の派手な品種です。ゴールデンダイヤ、マーブルダイヤなど発展、派生タイプも多いです。水草水槽で魅力を生かせるでしょう。

ベールテールエンゼル。各ヒレが著しく伸長する優雅な品種です。せまいスペースだとキズしやすいので、広めの水槽でゆったり飼育してあげたいところです。

ハーフブラックエンゼル。体側後半が黒い品種です。くっきりと色が分かれた個体は少なくなってきています。発展型にハーフブラックベールテールエンゼルなどもあります。

アルビノエンゼル。エンゼルにも赤い目のアルビノ品種があります。アルビノダイヤモンド、アルビノベールテールの発展型も美しいです。

ほかにもブラッシングエンゼル、レッドトップエンゼル、ゼブラ、レース、メタルなどさまざまな名称で多くの品種が流通しています。ここまで発展するということは、エンゼルがいかに繁殖しやすく、改良しやすい体質であるかがわかります。

■飼育にあたって
混泳水槽でも水草水槽でも楽しめるエンゼルですが、生後1年を過ぎて成魚に達する頃にはシクリッドとしての性質が目立ってあらわれるようになります。テリトリー(縄張り)を主張し、求愛行動を見せるようになります。しばしば、「エンゼルはネオンテトラといっしょに飼えますか?」という質問を受けますが、4~5cm幼魚からならいっしょに生活しやすいといえます。10cmのエンゼルが生活している水槽にあとからネオンテトラを導入すると、食べられてしまう可能性が高いでしょう。

エサに関しては、バラエティに富んだメニューをバランス良く、が原則で、なんでも喜んで食べるエンゼルに仕上げることで、エサを与える楽しみ、喜びを教えてくれることと思います。
エサの容器を見せただけで、あるいはエサをキャビネットから取り出す音だけで、冷凍飼料を与えようとして冷凍庫の扉を開けただけで、魚たちはにぎやかに集まってくるようになります。腹部がぐぐっと膨らむまで、何回かに分けて、数分の間、給餌しましょう。飼い主の顔をおぼえてくれるにちがいありません。

水温26~28℃。Ph6.0~7.0が基準となります。熱帯魚の飼育に関して、「水が悪い」、「水が合わない」という言葉があります。えてして「魚の状態、コンディションが悪い」ときに使われる言葉であります。これは、水質が悪い、水質が飼育魚に適していないという意味です。ある程度の飼育経験を積めば、魚の泳ぎ方やエサ食いの様子、呼吸や動きを観察して、コンディションを見極め、施す処置を判断することもできます。しかし、見た目には透明な飼育水の水質データは、試薬や機器によって測定することにより数値で表れるため、間違いがありません。水質を良くするのも、合わせるのも、魚の命は管理者の手にゆだねられているのです。毎日データをとって、メモをし、管理のポイントにしましょう。第一歩がPh。亜硝酸、硝酸塩、硬度と、徐々にステップアップしましょう。水温計は毎日チェックするもので、これを泳がせてはいけません。2本の水温計を入れる方法もおすすめです。誤差の限界を1℃として、2本が異なる水温を示したらサーモスタット、ヒーターをチェックし、水温計は新しいものに交換します。

■繁殖について
エンゼルは恋愛結婚をします。改良品種の場合、品種が異なってもペア同士が気に入れば交配が可能であります。多くの品種バリエーションが発生しているのはこのためであります。魚への愛着という面からは、ペアで購入するより、5~10匹の若魚を育て、自然とペアを形成した2匹を得る方法をおすすめいたします。ペア専用の水槽を用意してあげましょう。卵をものに産み付ける基質産卵と呼ばれる産卵形態です。産卵床となるのは、アマゾンソードの葉、素焼きの産卵筒、パイプ、ガラス面、流木などです。エンゼルのペアには気に入った水深があるようで、いくつか用意してやるとよいでしょう。せっかく産卵筒を入れてあげているのにパイプが気に入ってしまうペアもあります、(残念ですが、卵を移動させる親もいますので稚魚が自由遊泳に入るまではそのままにしておきます。)ペアはココと決めた産卵場所の掃除を始めます。2匹は口でつつくようなしぐさを見せます。たとえ少しコケが生えている場所でもきれいにしてしまいます。2~3日のうちに産卵が始まります。メスは突出した輸卵管、腹部を押し付けるように下から上へ1列に数個から十数個の卵を産みます。追いかけるようにオスがやはり下から上へ放精し、卵は受精します。卵の列は、通常数列できます。ペアは卵のそばを離れず、胸ビレを使って新鮮な水を卵たちに送り続けます。卵は水温27℃の時、2~3日でふ化します。ペアは未受精卵、死卵を口で取り除いたり、ふ化したてで落下した稚魚を口でそっと元の位置に戻したりなど、健気に面倒を見ます。稚魚たちは、卵黄を吸収し終わり身軽になると、自由遊泳を始めます。ブラインシュリンプやベビーフードをスポイトで与えましょう。夜間、稚魚たちはまとまって親のそばに寄り添い、親は稚魚たちを守るのです。3週間から1ヶ月もすると、独特の背ビレ、シリビレの形が確認できるでしょう。2ヶ月から80日で親と同じ形にしましょう。親は1ヶ月ごとほどの間隔で7~8回の産卵をします。10回以上の産卵をする肝っ玉母さんもいますし、水槽の両コーナーで、2匹のメスを同時に相手したプレイボーイもいたことがあります。

私がよく感じることのひとつに、産卵が始まるとそれまで行っていた水かえなどの管理をしなくなる人が多い、ということがあります。それまで行っていた管理が適切だったからこそ産卵に至っているのであって、急に管理のスタイルをかえてしまうと水槽環境そのものにも影響を及ぼします。稚魚育成中は細心の注意が必要でありますが、しっかり管理してあげたいものです。

アカムシ、イトミミズ、ディスカスハンバーグ、人工飼料。こうしたエサに含まれる粗タンパク、粗脂肪を効率よく吸収させるには液体のビタミン(ウォーターコンディショナー)の添加が有効であります。各メーカーから発売されています。添加したものとそうでないものとを比べると、フンの量がちがうことがわかります。ビタミン添加したエサを食べた個体のフンは少なく、吸収され、血となり肉となっているのがわかるのです。与えるエサにふりかけても良いですし、水かえ終了時に中和剤、水質調整剤、バクテリアのあと添加する方法もあります。ホルモンバランスがよくなり、病気になりにくく健康に成長することでしょう。産卵も促進され、発色も良くなることうけあいです。

原種エンゼルの繁殖についても、基本的な部分は共通していますが、成功例はすこし高めの水温28~30℃、Ph5.0から6.5、硬度0から2、が目安になるデータであります。

毎日の観察、適切な処置や作業、そして愛。エンゼルたちはきっと、管理する者にヒレをひろげて応えてくれることでしょう。