金魚を飼育しましょう!

金魚のことを記した書物はたくさんあります。金魚500年の歴史に残る偉大な先生方の足跡、秘伝は趣味の枠組みを超越した研究対象でありますから、敬意を表し真剣にうけとめましょう。当コラムでは、金魚販売の現場において実際によく受ける相談や質問、そこから発生する考察をスペースの許す限りナビゲーションしていきたいとおもいます。

■金魚すくいのこと
お客様からいただく質問の中でいちばん多いのは金魚すくいの金魚が長生きしないということです。確かに持ち帰った金魚すべてを生かすのは難しいと思われます。彼等は流通の過程においてショップで販売される魚のような扱いをされていないのが現状です。浅く張られた水に過密に詰め込まれ、紙やモナカ(ポイといいます)で追いかけられ、酸素も入れてもらえず運ばれてしまうのです。持ち帰られてもセットしたての不安定な環境や、異なる水温異なるphに入れられては‥‥彼等が生活するには過酷な1日であります。通常、魚を飼育するにあたって、あらかじめ用意した水槽に水合わせをして導入することと比べていただきたいのです。金魚すくいには受け入れる水槽をセットしてからでかけましょう。縁日の和金と10年つきあう人も少なくないのです。

■購入時の金魚の選びかた
金魚、ディスカス、アロワナ、フラワーホーンを筆頭に魚の第一印象はきわめて重要です。購入のときのみならず、品評会、コンテストにおいても大きなポイントとなるところです。長いつきあいになるので気に入った個体を入手してほしいのです。ショップの店員さんに『元気そうな子を』とお願いしてもよいと思いますが、もうワンステップアップして自分で選択した個体をすくってもらうとよいでしょう。元気に泳いでいるか、ヒレや体にキズやいたみはないか、眼球、エラは正常か、体型はどうか、更紗(赤と白の織りなす模様を更紗といいます)や三色の場合は、模様の入り方が好みか、などをポイントとすると良いとおもいます。なるべく多くの魚を見て、見る目を養うと将来性について推測する楽しみもでてきますし、コンテスト出展などにも夢が膨らむでしょう。

■エサのこと
現在では多くのメーカーから良質のエサがリリースされています。何種類か用意してローテーションを組んで与えると良いでしょう。1種類だけのエサで育った魚と、数種類のエサを食べて育った魚を比べると発色、太り具合、ツヤなどの面でやはり差が出てきます。1種類のエサのみを与えることによって、赤色であった金魚が白くなってしまったり、成長不良をきたしたりすることもあります。また、金魚はグルメな面も持ち合わせており、開封直後のエサは食いつきが良いのです。何でも喜んで食べさせるためにも、数種のエサは用意してほしいところです。ペレット、フレーク、冷凍、フリーズドライ、赤虫、イトミミズ、水草など、食べる様子を観察してほしいとおもいます。

与え方について。購入したエサの説明を見ると『数分で食べきる量を1日2~3回』とたいてい書いてあります。当コラムとしてはエサの与え方として次の方法を提案します。

まず、少量のエサを入れる。そして食べきったらもう少し与える。この繰り返しの時間を数分としてほしい、ということです。数分あれば水温やろ過槽の状態もあわせて確認できます。一度に大量のエサを入れてエサが沈んでしまう状態も問題発生の原因となりますし、決まった時間に1~2回の投与ではエサ不足も招きかねません。水温、水の状態、魚のコンディションなどによって食べる量はいつも同じとは限りませんので、与えたエサはすべて愛魚の口に入れる、くらいで良いでしょう。昔から『エサをやりすぎると死ぬ』といわれますが、これは本当で与えすぎるよりは控えめの給餌をこころがけると良いでしょう。

■Phのこと
金魚の飼育においてPhの把握、管理はきわめて重要です。一般的な飼育セットでスタートし、エサをやり、バクテリアによる硝化作用がすすむと、どうしてもPhは低下していくのです。Ph5前後では、金魚の遊泳が鈍くなり、エサ食いも鈍り、底のほうでじっとしてしまうこともあります。Phは、毎日決まった時間に測定しましょう。数値をメモし、できればグラフにすると水槽内でなにが起こっているかが把握でき、適切な処置方法も見えてくるとおもいます。

Phの管理においてはスタイルに合った方法を選んでほしいところです。

①Phを降下させにくい機能をもつろ過材を使用して安定を図る。

②硅砂やサンゴ砂、カキガラを使用すると成分が溶けだすことによりPhを上昇させることができる。

③Ph調整剤を使用する。などの方法が知られています。

■病気のこと
病気にはならないように管理するのが理想でありますが、金魚の病気の問い合わせは白点、尾ぐされを筆頭に後を絶ちません。病気を発見したらすぐに処置を施すため、魚病薬は数種類用意しておくと良いでしょう。人の1日と魚たちの1日は異なるらしく、病気の進行は早いのです。処置が遅れると完治も遅く、死に至ることもあります。あわてて薬を買いに走ることがないようにしたいところです。日ごろの管理、観察が重要です。なお、精製前の原塩の使用はミネラルバランスを改善し、殺菌効果もあり有効であります。0.5%の塩水(飼育水10リットルにおよそ塩50g)で予防薬浴する方法も知られています。

転覆病について。琉金、オランダなど丸手の金魚に多く発生する病気で上下さかさまにひっくりかえってしまう症状であります。エサを食べるときは戻ったりして、すぐに斃死することはありません。原因は、水温が関係しているといわれています。15℃以下だと発生しやすいとされます。また、水かえなどにより水温が急変したりすると発症するようです。運動神経系に異常をきたすとされています。

食べ過ぎの金魚もかかりやすく、肥満により圧迫されたウキブクロの調整機能が狂うともいわれています。コレを入れれば元通りに泳ぐようになる、という薬はなく、ヒーターの使用で水温を一定に(25℃前後)保つことで予防となります。発症した場合、水温を上昇させることで元通りになることもありますが、発症して長期間が経過しているときは現在のところあきらめるしかないようです。

「転覆病の原因」、最近では以下のようにとらえられております。
転覆病は、金魚のうきぶくろの異常により発生すると考えられてきました。金魚は浮き袋を2個持っていますが、そのうち1個または2個がなんらかの原因により収縮してしまい、金魚は平衡を保てなくなり転覆すると言われてきました。しかし、転覆病になった金魚のレントゲン写真を見てみると、正常な浮き袋を持っているものでも転覆することがあるということがわかり、浮き袋の異常が転覆病の直接的な原因ではないことが示唆されました。
最近の研究では、金魚の脊椎の中の平衡感覚に関係する神経が支障をきたし、それらが原因で金魚が転覆すると考えられています。
ではどんなときに神経が支障をきたすのか、を考えてみましょう。
①エサの与えすぎによる金魚の肥満で平衡感覚をつかさどる神経が圧迫される。
②水温の低下で神経そのものが支障をきたす。
まだまだわからないことの多い病気ですね。
「対策」
完全な治療法はありません。しかしこの病気は水温が低下する冬に多く見られることから、水温をゆっくり25℃前後で一定にすると、転覆して間もない金魚に限っては治ることが知られています。
肥満を防ぐためには2~3種類のエサを与え、栄養のバランスをとり、なおかつ与えすぎない量を見きわめることが大切です。カボンバやアナカリスもエサとして与えると良いでしょう。水草に含まれるカロチンが体色を鮮やかにし、調子を整えます。
粗塩の使用(0.2~0.3パーセント)は、金魚のミネラルバランスを整えるので、一応効果的です。体表にキズがある場合は浸透圧調整機能が低下していますので、入れたほうが良いでしょう。

■水道水について。
水道水は各地で水質が大きく異なります。できれば水かえ毎に水質チェックをすると良いでしょう。浄水場によって、季節によって、でてくる数値は異なるはずです。梅雨時や季節の変わり目、この夏いちばんの暑さ、などという時は注意したほうがよいとおもいます。水道局に問い合わせれば塩素量など詳細がわかります。マンションなどに多い貯水タンクの場合、汲み置かれることによって炭酸ガスが放出され、原水よりPhが上がる、という性質を忘れてはなりません。停電時、水も出なくなってしまう上階にお住まいの方は注意してほしいところです。マンションの定期的なポンプ点検や、タンク清掃後の水は、はっきりいって使わないほうがよいでしょう。

■繁殖のこと
金魚の産卵は明け2歳魚から可能であります。寒い冬が終わり、水ぬるむ春がシーズンであります。飼育下では金魚のライフサイクルに合わせた水温管理が必要となるでしょう。金魚に冬を感じさせるには水温5℃~10℃で50~60日の環境を提供します。春が近づき15℃、20℃になってくると産卵が始まるのです。

雌雄の判別について。オスの特徴は繁殖期に現れる追い星であります。エラブタや胸ビレに白い点が現れます。毎年白点病と間違える人から問い合わせを受けます。(たしかによく似ています。)メスは冬のあいだから抱卵しているため生殖孔が突出していて、大きいのが特徴です。抱卵しているメスのお腹はやわらかくなっていきます。産卵槽には、カボンバ、アナカリス、ホテイアオイなどの水草を入れましょう。(人工水草や荷造り用のテープでの成功例も多いです。)両親を合わせて産卵を待ちます。2、3日で産卵しなければ元にもどして仕切りなおし。産卵後は卵が食べられてしまわないように親は隔離して、稚魚育成水槽とします。産卵後、精子で白く濁った水は必ず交換しましょう。消毒の意味もこめてマラカイトグリーンやメチレンブルーをうっすら(規定量の三分の一程度)投入するやり方もベテランのあいだでは多いですね。よく受ける質問の一つに、卵や稚魚がフィルターに吸い込まれる、というのがあります。ろ過をしないケースではエアレーションのみで換水によって管理していきます。フィルターを使用する場合は吸い込み口にストレーナースポンジをつけたり、水流を弱めにする処置などが必要となります。さて、卵は20℃~25℃においてはおよそ4~5日でふ化します。17℃のときは7日ほどです。ふ化したての稚魚たちはサイ嚢とよばれる器官から養分を摂り、2~3日間じっとしていますが、自由遊泳をはじめたらエサを与えなければなりません。エサ供給の安定性からブラインシュリンプをふ化させて与える方法が良いでしょう。各メーカーからリリースされている優秀な稚魚用飼料や、冷凍飼料も忙しい現代人には大きな助けとなるでしょう。ふ化して一週間から10日で最初の水かえをし、エサやり、水かえを基本的な管理として成長させましょう。育成の段階で、淘汰の作業も必要であります。奇形魚、成長不良魚などは、思い切ってはじかなければなりません。なお、異種間の交配は奇形魚が多く産まれるようで、交配は同種間が良いでしょう。新品種誕生の大きな夢は異種間交配にありますが、固定には10年以上かかると思われ、覚悟と決意と実行力が必要です。

■世界各地で金魚ブーム
ピンポンパールのブレイクもうけて、シンガポール、香港、ペナン、中国での生産がめざましいです。ドイツでの金魚、錦鯉の熱も高まっており、ノウハウが輸出されているような状況であります。アクアラマ、インターズー、ペットエキスポなど世界レベルの会場には金魚や錦鯉が展示され(ランチュウ、紅白、三色などは日本語そのままです)コンテストもしっかりカテゴリー分けされてきています。日本の生産者が作る魚とは一線を画したかわりだねも見かけられ、まだまだ発展していくことは想像にかたくありません。金魚先進国日本も、生産者からちびっこキーパーまで、更なる発展を遂げることを切に希望します。