カギはpH

絶滅したとみられながら約70年ぶりに山梨県の西湖で生息が確認された魚クニマス。

本来の生息地・田沢湖がある秋田県仙北市では、発見者の東京海洋大客員准教授「さかなクン」の表彰を検討するなどブームに沸く一方、水質の問題から「帰郷」のめどは立っていない。西湖側でも、保護に向け、手探りが続く。

「クニマスは、いた!! きっと故郷田沢湖へ」。

クニマス発見の報から1か月近くたった今月11日、JR田沢湖駅に懸垂幕がお目見えした。掲げたのは、懸賞金をかけて全国に情報を求めたこともある田沢湖観光協会。地元では観光振興への期待も高まっている。

秋田県は仙北市と「クニマス里帰りプロジェクト」を発足させ、
〈1〉ハタハタに次ぐ県魚に
〈2〉県内での養殖
〈3〉田沢湖畔に展示施設設置――などの案が出ている。

だが、田沢湖でクニマスが死滅した原因となった水質問題は未解決だ。1940年、下流の水力発電所に供給する湖水を補うために温泉付近から流れ込む玉川の強酸性水を引き込んだことが死滅につながった。

田沢湖の水素イオン指数(pH)は2009年で5・1と、中性を示す7よりもかなり低く、ウグイやコイなど酸性に強い魚しか生息できない。1991年に中和施設が本格稼働して、98年には5・7まで回復したが、玉川の水の酸性度が上がり再び悪化。秋田県立大の杉山秀樹客員教授によると、クニマス生息には6・5~7・5まで中和する必要があるという。

県は「当初目標の6・0を達成する見通しもない」とし、仙北市は中和施設の能力向上や玉川の導水停止などを検討するが、水利権の調整が必要だ。

山梨県側では、富士河口湖町と西湖漁協が保護対策チームを設ける予定だが、突然見つかった幻の魚の扱いに戸惑いも広がる。