災害時

本日は私の尊敬する神戸動植物環境専門学校・川中豪先生のご意見を掲載させていただきます。数年前、関西地区で行われたアクアリウムフェアに出かけたときに知り合いになり、勤務されている専門学校を案内していただきました。年下だけれど尊敬できる、ということを教えてくれたかたのひとりであります。先生の意向で文章は全文コピーしたものとなっております。↓

生き物に関わる人同士で共有しておきたい情報を、思いつく限り書きます。冷静な判断の材料にしてください。

地震の直後とそれからしばらくは、飼育している動物が原因で二次災害が起きる危険性があります。どれぐらいの被害を受けているかにもよりますが、自分の飼育動物をチェックできる余裕のある方は、可能な限り注意を払ってください。動物好きには悲しいことですが、選択の余地がなければ、人命を優先しなくてはならない状況です。

**金魚や熱帯魚、海水魚**

ヒーターを止めるのがベストです。地震による水槽の割れ、水漏れ、ポンプの暴走(ホース外れ)、などで、ヒーターが空焚きになる可能性があります。空気中に出たヒーターは数百℃まで熱くなるので、まわりに紙や布があれば簡単に火がつきます。最近のヒーターは空焚き防止機能がついているものがほとんどですが、古いヒーターを使っている人も多いでしょうし、電気が止まった後もしばらくヒーターの表面は余熱で高温です。

実際に、阪神淡路大震災でも観賞魚用ヒーターの空焚きと思われる地震後の火災がいくつかありました。

魚はゆっくりとした水温低下になら耐えられます。ヒーターを切って、いまの季節だと15℃くらい(地域による)までは徐々に下がるでしょうが、死ぬ可能性は低いです。死んでしまう魚もいるかもしれませんが、非常時です。我々は諦めるしかありません。余震や二次災害の可能性が低く、魚をそのまま飼い続けられそうなら、節電のために設定温度を20℃くらいまで下げるのも意味があると思います(可変式サーモスタットの場合)。

次に、不必要な電気は消しておきましょう。コンセントも抜いておくこと。照明はいらないです。水草やサンゴは、一週間も真っ暗なら少しずつ枯れてしまうでしょうが、いつ地震が来るかわからない状況下で明かりを付けておく必要性は低いです。また、水草やサンゴのカルシウムリアクターでCO2ボンベを使っている方、バルブを閉じてボンベを固定してください。ボンベ自体重量物なので、CO2漏れだけでなく、揺れで飛んでいって凶器になりかねません。

フィルターも止めておいた方がいいと思います。よっぽどムチャな数を水槽に詰め込んでいるのでなければ、魚は当分生きます。どうしても心配なら、あれば、電池式のエアポンプとエアストーンで空気だけでも送っておいてください。これで酸素補給ができるのと、あと、ろ過バクテリアは飼育水中にもたくさんいるので、エアーを送りさえしていれば多少(あくまで多少。エサをあげない程度なら問題ないはず)のろ過はしてくれます。電池式のエアポンプはモノにもよりますが、大きい電池を使うタイプなら30~40時間は動いてくれたと思います。

(水温が下がると、水中に溶け込む酸素の量が増えるうえ、魚の活性が落ちて酸素消費量が減ります。つまり、魚が酸欠になりにくくなります。)

エサはあげないでください。種類によりますが食べなくても一週間はまず死にません。というより、水温は下がるわ、電気は消えるわ、揺れるわ、というストレスだらけの状態で魚はエサは食べられません。食べても吐きます。その食べ残しや吐き戻しのエサが、さらに水を汚すことになります。食べ残しのエサの方が、残りカスであるウンコよりも、水を汚染します。

まとめると、魚を置いて避難しなければならない場合は、ヒーターを止めて、ライトを消して、フィルターも止めて、全てのコンセントを抜いておくのが最も安全です。こうすることで水温は下がり、あたりは真っ暗になるので、魚は活性が落ちた状態で生き続けます。ゆっくりと死に向かっているだけかもしれませんが、魚が生きている間にライフラインや日常生活が戻れば、助け直すこともできます。人が無事ならできることです。


**爬虫類、両生類**

基本的には魚と同じになりますが、全てのコンセントを抜いておくことが最優先です。消費電力も熱の発生量も少ない遠赤外線ヒーター程度は最悪そのままでいいかも知れませんが、まず間違っても、バスキングランプや保温ランプなどの高温になるランプは点けないこと。地震でランプが割れてくれるならまだマシなほうで、衝撃でランプの向きが変わって、カーテンや紙などの燃えやすいものと接触すると火がつきます。

保温が心配なら、使い捨てカイロをいくつかケージに入れてください。これで一晩くらいはもちます。カイロがそのままだとすぐに冷えてしまうので、布か紙かで軽く覆うと、割と長持ちします。カイロは酸素を消費して発熱するので、密閉容器では使えません。当事者にとっては今言ってもどうにもならないことですが、爬虫類や両生類を飼う時は、使い捨てカイロは常備しておいてください。

非常時にあえてエサをあげる人もいないと思いますが、もちろんエサを与える必要はありません。魚と同じ理由で、食べさせても吐いて体力を余計に消耗するか、食べ残しを腐らせて病気になるかのどちらかです。どちらにせよ温度が下がってしまいますので、彼らにとって、しばらくの時間、エサは必要のないものになります。飲み水くらいは、余裕があれば、足してから家を出ればいいとは思いますが、それも絶対にやらないといけないことではないです。

それと、魚と違って脱走に注意です。非常時に、ヘビやトカゲが見つかったとなれば、余計なパニックを引き起こします。世の中の過半数の人は爬虫類や両生類が嫌いです。ヘタすれば、小さくて安全なヒョウモントカゲモドキ1匹でも、知らない人からすれば「毒のありそうなトカゲが出た!」という騒ぎになりかねません。

なので最低限、ガラスのケージは床に降ろして毛布をかけるとか、プラケースのフタはガムテープで固定しておくとかして、ケージが壊れない工夫・生体が不意に脱走しない工夫をできる範囲でしておいてください。知り合いの飼育者宅では、過去の地震でひっくり返ったプラケースからヘビが脱走しています。

小型種なら、ぜったいに人目につかないように連れていくこともできるでしょうが、大型種や活発な種類ではそれができません。くれぐれもこういった爬虫類を避難所に連れていかないでください。飼い主にとっては家族かもしれませんが、残念ながら、我々の好きな爬虫類は、安らぎを求めて避難所に集まっている人たちをパニックに陥れる生き物です。

もちろん、どうしても心配で電源が切れない、という人もいると思います。正直、そうすることで死んでしまう可能性がないとはいえません。しかし、活性が下がった状態で一晩、数日、一週間と耐えてくれる可能性の方が高いです。爬虫類は強いです。気休めですが、爬虫類は強いんです。信じましょう。

なお、発泡スチロールの箱に生体を小分けにして入れて、そこにカイロを入れておけば、かなりしっかりとした保温ケースになります。箱には少しの空気穴を忘れずに。


**小動物**

まず、すいません。全ての小動物にとって最善な解決策を持っていません。代表種を書いておきます。

ハムスター。もしくはそれに準ずるネズミの仲間。彼らは魚や爬虫類と違って、エサと水の切れ目が命の切れ目です。もし置いて避難するなら、大量の乾燥フードと、給水ボトルに水を満タンに入れて出て行きましょう。人が戻ってくるまでの間に、水とエサが無くなりさえしなければ、何とか生きているはずです。真冬の寒さは怖いですが、今くらいの冷え込みであれば、彼らはエサを食べて発熱しているので、耐えられるレベルだと思います。こういう時はヒマワリの種などの高カロリー食も多く与えて構わないです。

水がなければ、野菜や、きれいな野草が水分補給に使えます。

鳥もハムスターと同じく、というかむしろ、小動物の中でも絶食と断水に弱いので、これらを切らさないように大量にセットしていくしかありません。低温にも敏感です。カイロや毛布など、電気のいらない保温方法をできる限りやりましょう。神経質で声も大きいので、人が集まる場所では嫌がられるかもしれません。

ウサギです。ハムスターと同じ対処をして置いていくのがベストだと思います。フードをどっさり入れるのと、牧草も床材代わりにこれでもかと入れておけば、非常食になるはず。保温はカイロでは小さいので、湯たんぽや、お湯入りペットボトル(タオルで巻く)が使えます。

もしくは、キャリーに入れられるのに慣れているウサギなら、一緒に移動もできるのではないかと。鳴かないので他の動物ほど迷惑になることも少ないですが、元が神経質な動物なので、パニックには気をつけてください。周りの人を不安にする暴れ方をします。いずれ、連れ出さないほうがリスクは少ないと思います。

バナナは、避難所で手に入りやすいのと、小動物にとって少量で良いカロリー源になるので、エサが不足している時に非常食として使えます(私信)。


毎日生き物の顔を見ている人間がこれを書いているので、そうでない人からすると「ちょっと違うんじゃない」という表現もあるかもしれません。でもね、我々も生かすことを考えてるんです。好き好んで自分の大事な生き物のライフラインを止めようなんて思ってる飼い主は、いません。ヘビのヒーター止めろとか、書いてるだけで辛い。だとしても、人間が生きのびないと動物を生かすことはできないんです。

ここに書いたことがベストかはわかりませんが、冷静な判断の材料にしてほしいと思います。


【※2011.3.23.追記】

この記事が、いくつかのまとめブログに掲載されているようです。

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引用していただくことは歓迎していますが、その場合は全文コピーか、リンクをそのまま掲載してもらえればと思います。

また、この防災対策は私だけの発案ではなく、何人かの動物業界にいる方々からの情報を集め、まとめ直したものでもあります。そういった点では信憑性は高いはずですが、災害現場の目まぐるしく変化する状況を全てカバーできるものではありませんので、状況に応じた対応をお願いいたします。