涙がにじんで前が見えん

大会特別規定の3時間半を超えても決着が付かず、引き分け再試合となった専大松戸―千葉明徳戦。同点で迎えた5回表2死二、三塁のピンチに、マウンドへと向かう千葉明徳の鈴木康平(3年)の姿を見て応援席がどよめいた。エースへの期待と、前日184球を投げた疲れへの不安とで。

「疲れは相手も一緒。1点もやれない」。マウンド上の鈴木の頭には、前日に自分と同じ184球を投げ、今日の試合でもブルペンで投球練習する専大松戸のエース上沢直之の姿があった。

ライバルを強く意識し、初回から投球練習を始めた。しかし朝から体が重く、腕には張りがある。期待を背負ったマウンドでは、150キロ近くを記録したこともある自慢の直球を捨て、スライダーで押した。一ゴロ。右手で小さくガッツポーズした。

上沢は6回途中から登板。直球に疲れを感じさせない勢いがある。9回までに三つの空振り三振を奪われた。「上沢には絶対に負けたくない」。だけど疲れはどうしようもない。この試合では2回と3分の1を投げて被安打5。失策も絡み、3点を失って降板。


「自分の力を出し切ったうえでの結果。向こうのほうが上だった」。現時点での力の差を
突きつけられた。

試合後の整列を終えた鈴木が上沢の元へ歩み寄り、右手を差し出した。「絶対優勝しろよ」。素直に言えた。上沢も「うん」と握り返した。

千葉明徳の宮内一成監督は、精神的な弱さから春から調子を崩していたという鈴木に対し、「専松戦では気持ちのこもった投球をしてくれた。“明日”からはもっとよくなる」。鈴木は卒業後の進路をまだ決めていない。でも目標ははっきりした。「いつか上沢に投げ勝ちたい」