擬態魚を飼育しよう!
隠れたいのか、目立ちたいのか。擬態する魚たち。
いずれ劣らぬ個性派が揃っている擬態する魚たち。魚の体色、模様の秘密、生態の不思議、進化の奇跡、彼らを見ていると、実に多くのことを考えさせられる。今日はそんな不思議な彼ら擬態魚について考えてみよう。
水槽で誕生するブリード個体、養殖場で作られる多くの品種、グッピー、プラティ、ショーベタ、アジアアロワナ、ディスカスの改良品種、金魚、錦鯉・・・。これらの表現型は、観賞する人間にとって興味があるかないか、美しいか、良い親になれるか、作り出す側からすると商売になるかどうか、などが重要である。
一方、野生環境に生活する魚たちは、生きぬくこと、生き延びることが第一前提である。食べて、生きて、子孫を残さなければならないため、様々なかたちで生きる工夫をしている。神秘の繁殖形態、産む卵の数、体の大きさ、体の模様、体型、色、泳ぎ方、不思議な擬態、生活形態などが私たちを楽しませてくれている。日本の自然の河川で見られる川魚たちも同じ名前であっても地域によって個体差が認められる。底砂の色、光線、水質、食性など様々な要素によって生き抜きやすい姿を選んで命をつないできている。熱帯魚でも地域変異種が楽しまれるアピストグラマ、ペルヴィカクロミス、フロントーサ、ディスカス、ワイルドベタなどは、魅力的なローカルネームがついて愛好家の手によって大切にキープされている。特にオスはメスに気に入られて子孫を残さなければならないため、極めて美しい色彩を見せる。
今日のテーマ・擬態とは、魚たちが自衛、攻撃などに都合が良いように、形や色をほかのものに似せることである。色鮮やかな体色で「オレ、毒あるぜ」というもの、弱い立場の魚が強い立場の魚の姿を真似する「オレ、強いんだぜ」というもの、自然界の色や柄、木や植物に姿を似せて「見つけないでね」というもの、じつに興味深い生態が見られる。
■ファロウェラ・アクス
アマゾン水系に広く分布するファロウェラである。細長い体型をしており、枝状の流木に多くのファロウェラが吸盤状の口で吸い付き、枯れ枝擬態によって外敵から身を守っている。吸い付き生活は多くの環境に適応し、広い水系で繁栄している。飼育は吸い付きナマズ・プレコに準ずる。水槽飼育下においては流木や葉幅の広いアマゾンソードなどの水草にぶらさがった愛嬌のある様子が観察できる。やせさせないことが重要で、沈下性タブレットのプレコフードのほかに、ゆでたホウレンソウを与える方法が知られている。近年では人々の健康志向や、良質で安全な食材を求める考えが強まってきたのと同時に、レッドビーシュリンプのブレイクで無農薬ホウレンソウが入手しやすくなっている。生産者名までわかるホウレンソウをゆでて与える、あるいは冷凍保存する愛好家が増えてきている。
流木選びもアクアリウムの楽しみのひとつである。個体の大きさ、魚たちの生活の様子、レイアウトを考えて、また現地アマゾンに想いをめぐらせて自分だけの1本を見つけてほしい。
■リーフフィッシュ
アマゾン河上、中流域、ギアナに分布するナンダスの仲間である。成魚は10cmほどになる。落ち葉の多い、浅くゆるやかな弱酸性の水域が彼らの生活のステージである。完璧に木の葉、落ち葉になりきって小魚をあざむき、捕食するという魚食魚である。コノハウオという和名を持つ。リーフフィッシュは横から見ると枯葉や落ち葉に見えるが、正面から見ると体の厚さは非常に薄い。エサとなる小魚に気付かれないように静かに近づき、折りたたみ式の構造の口で丸のみにしてしまう。見つからない工夫、食べて生き抜く工夫の両面が見られる、擬態魚の代表種といえよう。下顎前部には葉っぱの柄にみせかけた弁皮をもち、リーフフィッシュこだわりのディティールの高さを感じる。マジックリーフやピートを用いて弱酸性の静かな環境を用意してあげよう。エアレーションはごく微量に、強い水流も必要ない。エサはメダカやアカヒレなどを与える。導入時の水温は高めの28~29℃をおすすめする。できれば生活していた水槽の水を多めに分けてもらい、徐々に自分の水槽の水で割っていくとストレスやショックが少ない。導入当初は同じ活きエサでもグッピーやプラティ、アカヒレの稚魚、小さめのメダカなど小さいものから与えていこう。与えるエサの数は、1日
に1~3匹からスタートするとよい。リーフフィッシュが環境になれ、落ち着いてきたら水温を1日に1度下げ、1週間ほどかけて26℃ほどにすると管理しやすくなると思う。
■バジスバジス
インドに分布する小型のナンダスである。気分や環境によってその体色は赤、茶、黒、体側には橙色や深青色が現れるため、カメレオンフィッシュとも呼ばれている。性質はおとなしく混泳にも向くが、活発な小型魚や数多くのタンクメイトがいる場合は、おとなし過ぎて物陰に隠れがちになるので、エサ不足に注意しよう。冷凍赤虫は好んで食べる。
■チャカ・バンカネンシス
インドネシアに分布する個性的な中型ナマズである。成魚は15~18cmになる。頭部は著しく扁平しており、体色は褐色で落ち葉に擬態していると思われる。砂に潜って生活していて、ほとんど動くことなく小魚を待ち伏せ、顔じゅう口なのではないかと思うほど大きな口で捕食する。飼育下ではなるべく細かい砂を敷いてあげたい。底砂を清潔に保つため、底砂クリーナーによる定期的な管理が欠かせない。
■リーフ・キャット
輸入量が少なく、なかなかお目にかかれない種である。アマゾン下流、グァポレ川の枯れ葉の堆積した水域に生息し、やはり枯れ葉に擬態しているものと思われる。ウッドキャットと同じように二次性徴を見せ、オスは背ビレの棘条と外側のヒゲを硬化させる。流木に見えるひともいるかもしれない。
■淡水カレイ・淡水ヒラメ
北米、南米、東南アジアには淡水カレイ、淡水ヒラメが生息している。砂に潜ってしまうと、人間の眼をもってしても発見できないことがある忍者のような隠れ方をする。輸入や移動・運搬のストレスや底砂のコンディション、流通の過程での塩分濃度などが飼育のポイントとなる。真菌類、綿かぶり病には細心の注意をしてあげたい。赤虫やイトミミズ、メダカなどの小魚を食べる。いずれも数種類が流通しているので、購入の際は淡水なのか、汽水なのか、入荷日はいつか、エサ食いはどうかなど、詳細を問い合わせてほしい。
■海にも目を向けてみよう
ショップのライブロック販売水槽にイザリウオが入っていると、見事に岩のように擬態し、見ているお客さんは魚がいるのかわからないくらいである。
底砂に合わせて体色を変え隠蔽的な擬態をするヒラメ、カレイのほかにも、シードラゴンが有名である。海藻のような姿で身を隠す水族館の人気者である。敵から身を隠すだけでなく、小魚やエビやカニなどのエサを捕らえるのにも都合がいいようだ。
逆に自分の姿を目立たせる標識的な擬態も知られている。ド派手な体色をもつもの、あるいは別の何かであるように見せるタイプである。例えば、毒をもっていないノコギリハギが、毒をもつシマキンチャクフグのフリをしている。毒やトゲをもっていたり、食べようものならひどい目に遭ったりさせたい!やはり生き抜く過程でこの道を選んだのだ。ベイツ型といわれる。ベイツ型の逆のパターンで攻撃型の擬態もある。有害な種が無害な種のフリをするものだ。ホンソメワケベラは掃除屋さん、クリーナーフィッシュとして多くの海水水槽のタンクメイトとして愛されている。魚の体表やエラ、口の中についている寄生虫や、食べカスを食べてくれるのだ。大きなウツボの口のなかにも入っていく。ウツボも食べることなくおとなしく口を開けて掃除してもらっている。甲斐甲斐しく働くホンソメワケベラのフリをして他の魚に近づき、その肉を食いちぎっていくのがニセクロスジギンポである。まったくものすごい道を選んだものである。体の一部を釣竿にしてエビや小魚をたべるアンコウもこの型の擬態である。昆虫では周囲の植物そっくりの色をして獲物にきづかれないようにしているカマキリが有名である。リーフフィッシュもこれに近い。
どちらがマネをされ、どちらがマネをしているのかはっきりしていないものも生活している。ミュラー型と呼ばれる。カサゴの仲間はどれも似たような表現型をもち、みんなそれぞれ毒を持っている。俺たち毒あるぜ、ということを誇示することによって外敵から身を守っているといえるだろう。
社会型・集団型な擬態といわれるのがゴンズイやイワシである。1匹では弱いが群れになることで巨大な魚や有害な生き物に見えるようにしている。有名なゴンズイ玉や、マイワシの魚群がこれにあたる。
種内型の擬態もしられている。敵やエサやモノではなく、同種の、例えば異性を対象としている擬態である。オスが卵のような模様をその体にまねて、その卵を保護しようとメスがやってくるのを待って種の保存をしようとするものである。攻撃や捕食を目的としない、繁殖のための擬態といえよう。
チョウチョウウオなどにも、身体に目玉模様のあるものが見られるが、これはベイツ擬態とは違う意味を持っていると言われている。何かになりすますというのではなく、攻撃する相手を一瞬戸惑わせ、その間に逃げるという作戦に使うと思われる。肉食魚は他の魚を攻撃しようとする時、相手の次の動きを予想し、逃げ出す方向を意識して飛び掛かる。普通は、逃げる方向は頭の方向であるから、身体の後のほうにある眼状紋を本当の目と勘違いすれば、その瞬間にタイミングのズレが生じ、攻撃された魚は捕食者から逃れることができるというわけだ。少なくとも目につきやすい目玉模様に向かって攻撃をかけられれば、致命的なダメージを受ける頭部への攻撃は避けられると思われる。眼状紋を持つのは、ベラ、チョウチョウウオ、スズメダイなど比較的小さな種類に多く、また幼魚のうちはあるのに成魚になるにつれ消えていく傾向も強いので、こうしたパターンがなんらかの防御に使われていることは間違いなさそうである。
個人的な興味であるが、磯で生活するヨツハモガニのカモフラージュも見事である。岩場から海藻を切り取ってきて甲や脚につける。動かない限り見つからないほどである。ファッションセンスが個体によって異なるのも面白い。
いずれのケースもコレが擬態であるかないか、の議論は続けなくてはならない。生きるためにいろいろな作戦を複合させているとおもわれる生物も多く、明確な線引きは難しい。
(ポイント1)生息環境を水槽で再現してあげよう。
本来の姿を観察するには、やはり彼らの故郷の環境を知り、できる限りその環境に近づけてあげたいものだ。
(ポイント2)外的な刺激はあたえないようにしよう。
彼らの生活の妨げになるような要素は少なくしたい。水槽周りが静かでないこと、不適切な管理、ストレスを生じさせる混泳魚との同居、水槽をたたくことなどは控えよう。
(ポイント3)繁殖に挑戦しよう。
彼らの生態をつかみ、繁殖にもチャレンジしよう。データをとることもたいへん重要だ。
いずれ劣らぬ個性派が揃っている擬態する魚たち。魚の体色、模様の秘密、生態の不思議、進化の奇跡、彼らを見ていると、実に多くのことを考えさせられる。今日はそんな不思議な彼ら擬態魚について考えてみよう。
水槽で誕生するブリード個体、養殖場で作られる多くの品種、グッピー、プラティ、ショーベタ、アジアアロワナ、ディスカスの改良品種、金魚、錦鯉・・・。これらの表現型は、観賞する人間にとって興味があるかないか、美しいか、良い親になれるか、作り出す側からすると商売になるかどうか、などが重要である。
一方、野生環境に生活する魚たちは、生きぬくこと、生き延びることが第一前提である。食べて、生きて、子孫を残さなければならないため、様々なかたちで生きる工夫をしている。神秘の繁殖形態、産む卵の数、体の大きさ、体の模様、体型、色、泳ぎ方、不思議な擬態、生活形態などが私たちを楽しませてくれている。日本の自然の河川で見られる川魚たちも同じ名前であっても地域によって個体差が認められる。底砂の色、光線、水質、食性など様々な要素によって生き抜きやすい姿を選んで命をつないできている。熱帯魚でも地域変異種が楽しまれるアピストグラマ、ペルヴィカクロミス、フロントーサ、ディスカス、ワイルドベタなどは、魅力的なローカルネームがついて愛好家の手によって大切にキープされている。特にオスはメスに気に入られて子孫を残さなければならないため、極めて美しい色彩を見せる。
今日のテーマ・擬態とは、魚たちが自衛、攻撃などに都合が良いように、形や色をほかのものに似せることである。色鮮やかな体色で「オレ、毒あるぜ」というもの、弱い立場の魚が強い立場の魚の姿を真似する「オレ、強いんだぜ」というもの、自然界の色や柄、木や植物に姿を似せて「見つけないでね」というもの、じつに興味深い生態が見られる。
■ファロウェラ・アクス
アマゾン水系に広く分布するファロウェラである。細長い体型をしており、枝状の流木に多くのファロウェラが吸盤状の口で吸い付き、枯れ枝擬態によって外敵から身を守っている。吸い付き生活は多くの環境に適応し、広い水系で繁栄している。飼育は吸い付きナマズ・プレコに準ずる。水槽飼育下においては流木や葉幅の広いアマゾンソードなどの水草にぶらさがった愛嬌のある様子が観察できる。やせさせないことが重要で、沈下性タブレットのプレコフードのほかに、ゆでたホウレンソウを与える方法が知られている。近年では人々の健康志向や、良質で安全な食材を求める考えが強まってきたのと同時に、レッドビーシュリンプのブレイクで無農薬ホウレンソウが入手しやすくなっている。生産者名までわかるホウレンソウをゆでて与える、あるいは冷凍保存する愛好家が増えてきている。
流木選びもアクアリウムの楽しみのひとつである。個体の大きさ、魚たちの生活の様子、レイアウトを考えて、また現地アマゾンに想いをめぐらせて自分だけの1本を見つけてほしい。
■リーフフィッシュ
アマゾン河上、中流域、ギアナに分布するナンダスの仲間である。成魚は10cmほどになる。落ち葉の多い、浅くゆるやかな弱酸性の水域が彼らの生活のステージである。完璧に木の葉、落ち葉になりきって小魚をあざむき、捕食するという魚食魚である。コノハウオという和名を持つ。リーフフィッシュは横から見ると枯葉や落ち葉に見えるが、正面から見ると体の厚さは非常に薄い。エサとなる小魚に気付かれないように静かに近づき、折りたたみ式の構造の口で丸のみにしてしまう。見つからない工夫、食べて生き抜く工夫の両面が見られる、擬態魚の代表種といえよう。下顎前部には葉っぱの柄にみせかけた弁皮をもち、リーフフィッシュこだわりのディティールの高さを感じる。マジックリーフやピートを用いて弱酸性の静かな環境を用意してあげよう。エアレーションはごく微量に、強い水流も必要ない。エサはメダカやアカヒレなどを与える。導入時の水温は高めの28~29℃をおすすめする。できれば生活していた水槽の水を多めに分けてもらい、徐々に自分の水槽の水で割っていくとストレスやショックが少ない。導入当初は同じ活きエサでもグッピーやプラティ、アカヒレの稚魚、小さめのメダカなど小さいものから与えていこう。与えるエサの数は、1日
に1~3匹からスタートするとよい。リーフフィッシュが環境になれ、落ち着いてきたら水温を1日に1度下げ、1週間ほどかけて26℃ほどにすると管理しやすくなると思う。
■バジスバジス
インドに分布する小型のナンダスである。気分や環境によってその体色は赤、茶、黒、体側には橙色や深青色が現れるため、カメレオンフィッシュとも呼ばれている。性質はおとなしく混泳にも向くが、活発な小型魚や数多くのタンクメイトがいる場合は、おとなし過ぎて物陰に隠れがちになるので、エサ不足に注意しよう。冷凍赤虫は好んで食べる。
■チャカ・バンカネンシス
インドネシアに分布する個性的な中型ナマズである。成魚は15~18cmになる。頭部は著しく扁平しており、体色は褐色で落ち葉に擬態していると思われる。砂に潜って生活していて、ほとんど動くことなく小魚を待ち伏せ、顔じゅう口なのではないかと思うほど大きな口で捕食する。飼育下ではなるべく細かい砂を敷いてあげたい。底砂を清潔に保つため、底砂クリーナーによる定期的な管理が欠かせない。
■リーフ・キャット
輸入量が少なく、なかなかお目にかかれない種である。アマゾン下流、グァポレ川の枯れ葉の堆積した水域に生息し、やはり枯れ葉に擬態しているものと思われる。ウッドキャットと同じように二次性徴を見せ、オスは背ビレの棘条と外側のヒゲを硬化させる。流木に見えるひともいるかもしれない。
■淡水カレイ・淡水ヒラメ
北米、南米、東南アジアには淡水カレイ、淡水ヒラメが生息している。砂に潜ってしまうと、人間の眼をもってしても発見できないことがある忍者のような隠れ方をする。輸入や移動・運搬のストレスや底砂のコンディション、流通の過程での塩分濃度などが飼育のポイントとなる。真菌類、綿かぶり病には細心の注意をしてあげたい。赤虫やイトミミズ、メダカなどの小魚を食べる。いずれも数種類が流通しているので、購入の際は淡水なのか、汽水なのか、入荷日はいつか、エサ食いはどうかなど、詳細を問い合わせてほしい。
■海にも目を向けてみよう
ショップのライブロック販売水槽にイザリウオが入っていると、見事に岩のように擬態し、見ているお客さんは魚がいるのかわからないくらいである。
底砂に合わせて体色を変え隠蔽的な擬態をするヒラメ、カレイのほかにも、シードラゴンが有名である。海藻のような姿で身を隠す水族館の人気者である。敵から身を隠すだけでなく、小魚やエビやカニなどのエサを捕らえるのにも都合がいいようだ。
逆に自分の姿を目立たせる標識的な擬態も知られている。ド派手な体色をもつもの、あるいは別の何かであるように見せるタイプである。例えば、毒をもっていないノコギリハギが、毒をもつシマキンチャクフグのフリをしている。毒やトゲをもっていたり、食べようものならひどい目に遭ったりさせたい!やはり生き抜く過程でこの道を選んだのだ。ベイツ型といわれる。ベイツ型の逆のパターンで攻撃型の擬態もある。有害な種が無害な種のフリをするものだ。ホンソメワケベラは掃除屋さん、クリーナーフィッシュとして多くの海水水槽のタンクメイトとして愛されている。魚の体表やエラ、口の中についている寄生虫や、食べカスを食べてくれるのだ。大きなウツボの口のなかにも入っていく。ウツボも食べることなくおとなしく口を開けて掃除してもらっている。甲斐甲斐しく働くホンソメワケベラのフリをして他の魚に近づき、その肉を食いちぎっていくのがニセクロスジギンポである。まったくものすごい道を選んだものである。体の一部を釣竿にしてエビや小魚をたべるアンコウもこの型の擬態である。昆虫では周囲の植物そっくりの色をして獲物にきづかれないようにしているカマキリが有名である。リーフフィッシュもこれに近い。
どちらがマネをされ、どちらがマネをしているのかはっきりしていないものも生活している。ミュラー型と呼ばれる。カサゴの仲間はどれも似たような表現型をもち、みんなそれぞれ毒を持っている。俺たち毒あるぜ、ということを誇示することによって外敵から身を守っているといえるだろう。
社会型・集団型な擬態といわれるのがゴンズイやイワシである。1匹では弱いが群れになることで巨大な魚や有害な生き物に見えるようにしている。有名なゴンズイ玉や、マイワシの魚群がこれにあたる。
種内型の擬態もしられている。敵やエサやモノではなく、同種の、例えば異性を対象としている擬態である。オスが卵のような模様をその体にまねて、その卵を保護しようとメスがやってくるのを待って種の保存をしようとするものである。攻撃や捕食を目的としない、繁殖のための擬態といえよう。
チョウチョウウオなどにも、身体に目玉模様のあるものが見られるが、これはベイツ擬態とは違う意味を持っていると言われている。何かになりすますというのではなく、攻撃する相手を一瞬戸惑わせ、その間に逃げるという作戦に使うと思われる。肉食魚は他の魚を攻撃しようとする時、相手の次の動きを予想し、逃げ出す方向を意識して飛び掛かる。普通は、逃げる方向は頭の方向であるから、身体の後のほうにある眼状紋を本当の目と勘違いすれば、その瞬間にタイミングのズレが生じ、攻撃された魚は捕食者から逃れることができるというわけだ。少なくとも目につきやすい目玉模様に向かって攻撃をかけられれば、致命的なダメージを受ける頭部への攻撃は避けられると思われる。眼状紋を持つのは、ベラ、チョウチョウウオ、スズメダイなど比較的小さな種類に多く、また幼魚のうちはあるのに成魚になるにつれ消えていく傾向も強いので、こうしたパターンがなんらかの防御に使われていることは間違いなさそうである。
個人的な興味であるが、磯で生活するヨツハモガニのカモフラージュも見事である。岩場から海藻を切り取ってきて甲や脚につける。動かない限り見つからないほどである。ファッションセンスが個体によって異なるのも面白い。
いずれのケースもコレが擬態であるかないか、の議論は続けなくてはならない。生きるためにいろいろな作戦を複合させているとおもわれる生物も多く、明確な線引きは難しい。
(ポイント1)生息環境を水槽で再現してあげよう。
本来の姿を観察するには、やはり彼らの故郷の環境を知り、できる限りその環境に近づけてあげたいものだ。
(ポイント2)外的な刺激はあたえないようにしよう。
彼らの生活の妨げになるような要素は少なくしたい。水槽周りが静かでないこと、不適切な管理、ストレスを生じさせる混泳魚との同居、水槽をたたくことなどは控えよう。
(ポイント3)繁殖に挑戦しよう。
彼らの生態をつかみ、繁殖にもチャレンジしよう。データをとることもたいへん重要だ。