ナイジェリアやザイールを中心とする西アフリカは、世界第2位の水量をほこる大河川地帯である。ジャングルの中を流れる小川や、灼熱のサバンナを潤す1000km級の河川には、美しい色彩が魅力のシクリッドたちが生息している。今回は、アフリカ河川産シクリッドとよばれる興味深い魚たちについてナビゲーションしていこう。赤道を跨ぐ熱帯雨林気候で、1年中高温、スコールの多雨地帯を流れる河川は南米同様、コーヒー色をしており、水質も中性から弱酸性のところが多い。湿度の高い地域には、日本でもおなじみのアヌビアスの仲間や、シダ類が自生している。南米、東南アジアとならぶ熱帯魚の宝庫で、美しさ、コレクション性、繁殖、生態、どれをとってもひけをとらない魚たちが栄えている。以前はワイルドもの(アフリカからの輸入ルートが南米や東南アジアより少ないため高価である。)あるいはドイツのブリード個体が中心となっていたが、近年シンガポールのブリード個体もペルヴィカクロミスプルケールや、タエニアートゥスを中心にクオリティが上がってきている。これはシンガポールのブリーダーに、日本からワイルド個体やドイツブリード個体、あるいは国産ものが優秀な親として供給されているためで、飼育しやすくなっているうえ、価格も控えめという感謝すべき状態になってきている。
■水槽について
ペルヴィカクロミスの仲間は成魚で8から10cmほどになり、ペアでの飼育や、ペアを落ち着かせるために混泳させる他魚のことも含め考えると、やはり基本となるのは60cm水槽である。シクリッドに属する彼等は、必ず自分のテリトリー(縄張り)をもつ。強い個体ほどテリトリーを広範囲にもつため、本来の姿や生態を観察するにはなるべく大きな水槽を用意してあげたい。産卵に必要な隠れ家となるシェルターを入れることも多いので、60cmでも奥行きが45cmあるものや、75cm、90cmならばなお良いといえる。
■シェルターについて
西アフリカ河川産シクリッドの多くは、飼育者からは見えにくい場所を選んで産卵する。流木や岩、大きな水草の株などが選ばれることもあるが、魚のサイズやレイアウトに合わせた産卵用シェルターの使用が繁殖成功の近道である。市販の産卵シェルターを見てもわかるとおり、容積はペアが同時に入ることができるものでなければならない。逆さになって卵を産みつけたり、うまれた稚魚たちの世話をするので、10cmほどの天井高が必要だ。500円玉よりひとまわりほど大きい入口の穴をひとつ。ひとつの理由は、入口が親魚の出入り口になるだけでなく、外敵の侵入口にもなること、複数の出入り口は卵や稚魚を守る親魚の負担となり、守りきれないと卵を食べてしまったりすることがあることなどである。親魚が卵に対して、ヒレをあおいで新鮮な水を送る行動があるため、通水孔をつけてあげよう。市販のもののほか、素焼きの植木鉢や小鉢を加工したものや、ココナッツシェルも使用される。レイアウトの際、シェルターのまわりには水草や流木などを障害物的に配置すると、シェルター付近が適度に暗くなったり、ペアが落ち着いたりするので、上手に産卵、育児がすすんでいくであろう。
■水草について
彼等の生息環境には水草が多く、水槽飼育においても、二酸化炭素を添加する水草レイアウト水槽でも(もちろん一般的な飼育設備でも)OKである。アヌビアス、アマニア、ネサエア、ボルビティス、ラガラシフォンなど、アフリカに分布する水草との相性もよく、産地レイアウトもおすすめだ。アヌビアスの仲間は流木に活着する性質があるので、多くの株を流木に固定し立体的なレイアウトに仕立てると独特の雰囲気をかもしだせる。アヌビアスの多くは水草用のポットに入って販売されている。持ち帰ったら、水槽の水をボールにとり、ポットをつけよう。水中でポットをそっと取り外し、株を保護しているウールをピンセットで取り外す。この時も水中で、あるいは流水でピンセットを上から下へ動かすときれいにはがすことができる。活着させるときのポイントは、流木の表面に逆らわないように株をあてがうことだ。針金入りのビニールタイで固定し、低濃度で液体肥料を与え、二酸化炭素を添加するとより早く活着する。どんな水草にもいえることであるが、処理した水草は水槽の中でまわして見てほしい。顔ともいえる見栄えの良い面を水槽前面にくるように配置すると上手なレイアウトができるであろう。アヌビアスの仲間は成長がゆっくりで、月に1枚か2枚、新しい葉を出す程度であるため、底床に植え込んで通気性や通水性を損なうよりは、流木に活着させ移動できるほうが都合の良い場合もある。もっとも産卵水槽においては、中のセットや水草、シェルターなどの配置は変化させないほうがペアにとっては良好ではあるのだが、葉のフチなどに付着するコケ対策や、底床掃除の際、効果的ということである。
■エサについて
エサは朝夕2回与えると良い。1回だと栄養面から繁殖時に不安を残す。活きエサ、冷凍飼料、人工飼料、フリーズドライ、なんでも良く食べるので、メニューはバラエティに富んだものにしてあげたい。成長期の若魚にはたっぷり与えたり、成魚には太り過ぎないように与えたりと、量や回数はしっかり見きわめ、みなさんのテクニックとしていただきたい。色揚げ用飼料や、ディスカス用飼料やシクロプスもきわめて有効である。
■水質について
西アフリカ河川産シクリッドの多くは弱酸性の軟水で繁殖に至る。お店に立ってお客様の質問を受けるときによく感じるところであるが、PH7.0の水はPH8.0の水よりも10倍酸性であることを念頭に水質管理をしよう。PH値は対数値なのだ、PH6.0の水は、PH8.0の水よりも100倍(10倍の10倍)酸性であるのだ。水温に関しては、飼育、繁殖ともに25~27℃で問題ない。総硬度8dH前後、炭酸塩硬度0.5~1という数値が基準になるかと思う。
■繁殖について
入門種であるプルケールは、『しばらく姿が見えないと思ったら、ある日稚魚をひきつれてでてきたよ』というケースがよくあるほどだ。親魚は健気に卵や稚魚の面倒をみる。50~100匹ほどの子供たちに対して親魚が自分の体をブルブルッと小刻みに震わせて、なんらかの危険を知らせる様子なども観察していただきたい。見逃せないのが繁殖時の美しさである。砂を掘って巣づくりしたりしている時や、メスの前でヒレをいっぱいに広げて求愛行動を見せるオス、腹部がサクランボのように赤く膨らんだメスなど、感動の場面の連続で、あっという間に大家族にしてしまうキーパーも多い。泳ぎ始めた稚魚たちにはブラインシュリンプを中心に十分にエサを与える。幼魚期の餌不足はその後の成長に大きな影響を与える。大きくならない、色彩がいまひとつ、死亡する、などということのないように準備してあげよう。なお、ペアを組んで繁殖に入るころのメスはとても強い。混泳水槽における同居魚がいる場合は注意してほしい。産卵後はオスが次に備えるので、また強くなる傾向があることなども観察できることのひとつである。オスのほうがメスよりもサイズが大きいのが基本である。
アノマロクロミス・トーマシーは、人の見ているところでも産卵する入門魚で、水槽に持ち込んでしまった貝を食べることでも有名である。実は飼い込んだ個体は感動的に美しい。
■ローカルネームについて
タエニアートゥス種を中心に、ローカルネームとも呼ばれる地域名がついて流通している。(タエニアートゥス・デハネやクンバフンゲなど。)これには、系統をしっかり保ってほしいという強い願いがこめられている。交雑を避ける、コレクション性を高める、地域によって異なる個体差を楽しむ目的などがあり、流通の過程においてもそれ相応の扱いをされる。採集、シッピング(袋にパックして飛行機に積むこと)、卸問屋、ショップに至るまで、一般種とは一線を画した接し方をされることが多い。そのような扱いを受けてきた個体は少し気難しいと感じる場面があるかもしれないが、基本的な飼育、繁殖方法は、プルケール種に準ずる。硬度や導電率、PHなどは確認したうえ選ぶとよいだろう。皆さんの水槽に魚が泳ぐまでにいろいろな人がより大切にしてきた個体は、しっかりとキープしていただきたい。
■購入にあたって
『良い個体を発見したときに購入する』のが原則である。マニアの間では、いるとき買うなどといわれ、いつでも導入できる態勢を整えておくキーパーも多い。細心の注意をはらって飼育していても、不慮のできごとでペアの片方を亡くしたりし、欲しいと思ったときには気に入った個体に出会いにくいところから、そういわれるのであろう。これは、アピストグラマやプレコ、ディスカスなどにも共通するところで、個体を見るポイントはいつも同じスタンスで、気に入った個体を厳選してほしい。ブリードものに関しては、販売されている個体のサイズが小さいものも多い。個体が若いため、色彩などはまだまだこれからなので、将来性を見る選別眼を養ってほしい。大切に飼育することで、成長し仕上がったときの色彩やフォルム、健気な繁殖行動に目を細める時間を手にいれていただきたい。俺の魚、私の魚と呼べる個体が必ずいる。
■水槽について
ペルヴィカクロミスの仲間は成魚で8から10cmほどになり、ペアでの飼育や、ペアを落ち着かせるために混泳させる他魚のことも含め考えると、やはり基本となるのは60cm水槽である。シクリッドに属する彼等は、必ず自分のテリトリー(縄張り)をもつ。強い個体ほどテリトリーを広範囲にもつため、本来の姿や生態を観察するにはなるべく大きな水槽を用意してあげたい。産卵に必要な隠れ家となるシェルターを入れることも多いので、60cmでも奥行きが45cmあるものや、75cm、90cmならばなお良いといえる。
■シェルターについて
西アフリカ河川産シクリッドの多くは、飼育者からは見えにくい場所を選んで産卵する。流木や岩、大きな水草の株などが選ばれることもあるが、魚のサイズやレイアウトに合わせた産卵用シェルターの使用が繁殖成功の近道である。市販の産卵シェルターを見てもわかるとおり、容積はペアが同時に入ることができるものでなければならない。逆さになって卵を産みつけたり、うまれた稚魚たちの世話をするので、10cmほどの天井高が必要だ。500円玉よりひとまわりほど大きい入口の穴をひとつ。ひとつの理由は、入口が親魚の出入り口になるだけでなく、外敵の侵入口にもなること、複数の出入り口は卵や稚魚を守る親魚の負担となり、守りきれないと卵を食べてしまったりすることがあることなどである。親魚が卵に対して、ヒレをあおいで新鮮な水を送る行動があるため、通水孔をつけてあげよう。市販のもののほか、素焼きの植木鉢や小鉢を加工したものや、ココナッツシェルも使用される。レイアウトの際、シェルターのまわりには水草や流木などを障害物的に配置すると、シェルター付近が適度に暗くなったり、ペアが落ち着いたりするので、上手に産卵、育児がすすんでいくであろう。
■水草について
彼等の生息環境には水草が多く、水槽飼育においても、二酸化炭素を添加する水草レイアウト水槽でも(もちろん一般的な飼育設備でも)OKである。アヌビアス、アマニア、ネサエア、ボルビティス、ラガラシフォンなど、アフリカに分布する水草との相性もよく、産地レイアウトもおすすめだ。アヌビアスの仲間は流木に活着する性質があるので、多くの株を流木に固定し立体的なレイアウトに仕立てると独特の雰囲気をかもしだせる。アヌビアスの多くは水草用のポットに入って販売されている。持ち帰ったら、水槽の水をボールにとり、ポットをつけよう。水中でポットをそっと取り外し、株を保護しているウールをピンセットで取り外す。この時も水中で、あるいは流水でピンセットを上から下へ動かすときれいにはがすことができる。活着させるときのポイントは、流木の表面に逆らわないように株をあてがうことだ。針金入りのビニールタイで固定し、低濃度で液体肥料を与え、二酸化炭素を添加するとより早く活着する。どんな水草にもいえることであるが、処理した水草は水槽の中でまわして見てほしい。顔ともいえる見栄えの良い面を水槽前面にくるように配置すると上手なレイアウトができるであろう。アヌビアスの仲間は成長がゆっくりで、月に1枚か2枚、新しい葉を出す程度であるため、底床に植え込んで通気性や通水性を損なうよりは、流木に活着させ移動できるほうが都合の良い場合もある。もっとも産卵水槽においては、中のセットや水草、シェルターなどの配置は変化させないほうがペアにとっては良好ではあるのだが、葉のフチなどに付着するコケ対策や、底床掃除の際、効果的ということである。
■エサについて
エサは朝夕2回与えると良い。1回だと栄養面から繁殖時に不安を残す。活きエサ、冷凍飼料、人工飼料、フリーズドライ、なんでも良く食べるので、メニューはバラエティに富んだものにしてあげたい。成長期の若魚にはたっぷり与えたり、成魚には太り過ぎないように与えたりと、量や回数はしっかり見きわめ、みなさんのテクニックとしていただきたい。色揚げ用飼料や、ディスカス用飼料やシクロプスもきわめて有効である。
■水質について
西アフリカ河川産シクリッドの多くは弱酸性の軟水で繁殖に至る。お店に立ってお客様の質問を受けるときによく感じるところであるが、PH7.0の水はPH8.0の水よりも10倍酸性であることを念頭に水質管理をしよう。PH値は対数値なのだ、PH6.0の水は、PH8.0の水よりも100倍(10倍の10倍)酸性であるのだ。水温に関しては、飼育、繁殖ともに25~27℃で問題ない。総硬度8dH前後、炭酸塩硬度0.5~1という数値が基準になるかと思う。
■繁殖について
入門種であるプルケールは、『しばらく姿が見えないと思ったら、ある日稚魚をひきつれてでてきたよ』というケースがよくあるほどだ。親魚は健気に卵や稚魚の面倒をみる。50~100匹ほどの子供たちに対して親魚が自分の体をブルブルッと小刻みに震わせて、なんらかの危険を知らせる様子なども観察していただきたい。見逃せないのが繁殖時の美しさである。砂を掘って巣づくりしたりしている時や、メスの前でヒレをいっぱいに広げて求愛行動を見せるオス、腹部がサクランボのように赤く膨らんだメスなど、感動の場面の連続で、あっという間に大家族にしてしまうキーパーも多い。泳ぎ始めた稚魚たちにはブラインシュリンプを中心に十分にエサを与える。幼魚期の餌不足はその後の成長に大きな影響を与える。大きくならない、色彩がいまひとつ、死亡する、などということのないように準備してあげよう。なお、ペアを組んで繁殖に入るころのメスはとても強い。混泳水槽における同居魚がいる場合は注意してほしい。産卵後はオスが次に備えるので、また強くなる傾向があることなども観察できることのひとつである。オスのほうがメスよりもサイズが大きいのが基本である。
アノマロクロミス・トーマシーは、人の見ているところでも産卵する入門魚で、水槽に持ち込んでしまった貝を食べることでも有名である。実は飼い込んだ個体は感動的に美しい。
■ローカルネームについて
タエニアートゥス種を中心に、ローカルネームとも呼ばれる地域名がついて流通している。(タエニアートゥス・デハネやクンバフンゲなど。)これには、系統をしっかり保ってほしいという強い願いがこめられている。交雑を避ける、コレクション性を高める、地域によって異なる個体差を楽しむ目的などがあり、流通の過程においてもそれ相応の扱いをされる。採集、シッピング(袋にパックして飛行機に積むこと)、卸問屋、ショップに至るまで、一般種とは一線を画した接し方をされることが多い。そのような扱いを受けてきた個体は少し気難しいと感じる場面があるかもしれないが、基本的な飼育、繁殖方法は、プルケール種に準ずる。硬度や導電率、PHなどは確認したうえ選ぶとよいだろう。皆さんの水槽に魚が泳ぐまでにいろいろな人がより大切にしてきた個体は、しっかりとキープしていただきたい。
■購入にあたって
『良い個体を発見したときに購入する』のが原則である。マニアの間では、いるとき買うなどといわれ、いつでも導入できる態勢を整えておくキーパーも多い。細心の注意をはらって飼育していても、不慮のできごとでペアの片方を亡くしたりし、欲しいと思ったときには気に入った個体に出会いにくいところから、そういわれるのであろう。これは、アピストグラマやプレコ、ディスカスなどにも共通するところで、個体を見るポイントはいつも同じスタンスで、気に入った個体を厳選してほしい。ブリードものに関しては、販売されている個体のサイズが小さいものも多い。個体が若いため、色彩などはまだまだこれからなので、将来性を見る選別眼を養ってほしい。大切に飼育することで、成長し仕上がったときの色彩やフォルム、健気な繁殖行動に目を細める時間を手にいれていただきたい。俺の魚、私の魚と呼べる個体が必ずいる。